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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.51 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

コーポラティブハウスとコミュニティ(3) 中庭

(株)アーキネット代表 織山 和久

中庭の意義

 共有の中庭は、各戸の居住環境を高めるとともに、コミュニティ意識を育むのに、重要な役割を果たしています。

中庭に面して各住戸の開口部が設けられ、階段の昇り降りの際にお互いの気配を感じる。

 まずは採光性。回字状や凹字状に棟を構成して中庭をとると、中庭を介して柔らかい光が各戸に回り込んできます。光はガラスや壁面から反射もしますので、朝昼夕と日の入る角度はそれぞれですが、穏やかな光が一日中入ることになります。そんなわけで住まいから中庭に目をやると明るい気分になります。
 次は通風性です。中庭は囲われていて、一見すると風通しは良くなさそうです。けれども京都の町屋では中庭から風が抜けて涼しく感じられます。中庭の上空に風が吹くと、中庭の空気の圧力が下がって、その分、部屋内やその外から風が入ってくるためです。したがって中庭に向けて窓を開くと、心地の良い風を感じることができるわけです。
 プライバシーも、中庭では程よくコントロールされます。マンションの共用部と違って、外部から見知らぬ人が入ってくることはまずありません。物理的に囲われていることもありますし、中庭に向いた開口部が居住者の視線を意識させるため侵入を牽制できます。一方、中庭があることでちょっと距離を置いて、向かいの住戸の気配が感じられます。気の置けない間柄、お互いの生活感がさりげなく感じられることで、連帯感があって一人ぼっちではない、という安らぎを得ることができます。もちろん中庭では、植栽は目に潤いを与え、子供の格好の遊び場にもなります。
 中庭にはこうした特長があるので、コーポラティブハウスでもたびたび計画にも組み込まれ、コミュニティ意識を育んでいます。中庭側いっぱいに窓が広げられ、階段も窓に沿って設けられた計画では「昇り降りするたびに、ちょっと外に目をやって気持ちがほぐれる」といった声を伺います。

なぜマンションでは出来ないのか?

 こうした生き生きとした中庭があると心地よい暮らしができるのですが、残念ながらマンションではあまり見かけられません。
 その大きな理由がコストです。マンション業者にとっては、回の字状、凹の字状の棟をつくることは、外壁の面積が著しく増えてその分工事費が上昇する、と見なされます。その上にコンクリートの壁でなくて、ガラスの窓になると一層コスト高になります。専有面積が変わらないのに、工事費が割高になるのでは、マンション業者は考慮しません。いくら居住環境が良くなるとしても。また設計作業にとっても中庭型では、通常の全戸南向き○LDK・北側通路、というプランを転用できなくて面倒なのでしょう。
 次の理由がプライバシーです。分譲マンションでは、入居者はお互い見ず知らずの間柄ですから、中庭に介してお互いの気配が分かる、中庭に向けて住まいを開く、という感覚にはなれないと業者は判断します。中庭型では、販売時にも懸念され、入居後にもクレームが数多く寄せられる、と及び腰です。中庭のある計画にしても、それはだだっ広くて向こうがよく見えないような規模になってしまいます。残念なことです。

コーポラティブハウスでは可能なわけ

 マンションでは出来ないのに、コーポラティブハウスでは生き生きとした中庭が出来るのはなぜでしょうか? それはマンション業者のような懸念がないからです。

中庭を囲むように各住戸が並ぶ。中から、外の天気や出入りの様子もよく分かって和める。

 コスト面では、確かに外壁面・ガラス面が増えれば多少コスト増になります。けれども投資を上回るような居心地の良さがもたらされるなら、コーポラティブハウスのメンバー間では合意は得られます。インテリアや内装は後でもどうにかできますが、建物の枠組み(スケルトン)は後では取り返しがつきません。せっかくの住まいなのに、安かろう、悪かろう、では長い目で見ると後悔するからでしょう。もともと第一線の建築家が一品ものとして手がけているので、住戸と住戸の間合い・見合いなども繊細に設計されますし、設計の手間をいやがるわけもありません。
 プライバシーへの懸念も、コーポラティブハウスであればほぼ解消されます。一年半ほどプロジェクトに一緒に参画し、設計・施工の作業を共同で進めますので、お互いに信頼感も連帯感も持てる程よい間柄になります。したがってプライバシーについてもお互いの間で結構緩くできますし、仮に何か問題があってもお互いに建設的に話し合って解決できるという信頼感があります。

コミュニティの基本単位

光と風に恵まれる中庭。居住者同士の親密な雰囲気を醸し出している。

 コミュニティとして中庭を囲んで暮らすのが、居心地がいい。このことは人類の歴史が証明しているとも思われます。7千年前、四大文明が成立したとき、どの都市もこの中庭形式(コートハウス)で埋め尽くされていました。イベリア半島では、ローマ、イスラムと支配者は交代しても、中庭のある住まいが基本で、20世紀には北米西海岸にも移植されます。中世のミラノも、産業革命を経たパリ・ロンドンでも、やはりコートハウスが主体でした。中国では四合院が長い伝統を誇り、客家土楼も良く知られています。このようにコートハウスは、七千年の間しかも世界共通で、集合住宅の基本形だったわけです。
 理由は明快です。まず外敵に対して守りやすく、内部はコミュニティとして協力しやすい構造です。子どもを安全に遊ばせ、集団作業もできる場になります。中庭に面することで、内外に対してほどよいプライバシーも保たれます。そして周りの環境や建物に左右されずに、日光や新鮮な空気、心和む視界を得ることができます。こうした理由から、内部開口型のコートハウスは、都市計画以前の密集した都市であろうとも、コミュニティの基本単位になって発達してきたのです。 これに対して外部開口型のビルディング・マンションが普及したのはまだ百年足らず、国家権力による監視・隔離しやすい都市計画や歩兵や戦車も通る道路網とセットになってようやく成立した形式です。権力側としては、コミュニティを自立・連帯させるより、これを解体する方が監視・管理しやすかったのでしょう。レジスタンス映画の光景でも、コートハウスに集まっても外からは分かりにくいし、入り組んだ通路から逃げおおせますがが、マンションだと窓越しに様子がつかめて、追跡も容易です。マンションだとコミュニティ意識がなかなかできない、なんか疎外感がある、というのは実はとても根が深い問題です。
 21世紀の東京を思い浮かべてみましょう。都市景観は雑然としていて眺めても気分は良くなりません。市街地は建て込んでいて、お互いのプライバシーも保たれにくいです。けれどもコーポラティブハウスで見られるように、きっかけ次第で人びとは集まって暮らすのに安心と楽しみと感じます。こう考えると、コミュニティとして中庭を囲んで暮らす形は今の東京では、もっと見直されてもいいと思います。

筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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