第11回:旧住宅金融公庫の技術基準の推移が判断材料のひとつに
▼公庫融資を利用できれば返済負担は大幅に軽減
2007年4月から独立行政法人住宅金融支援機構に移行した住宅金融公庫は、原則的に個人向けの融資業務を廃止し、現在は民間機関と提携したフラット35の普及促進など、文字通り民間住宅金融業務の支援に特化した存在となっています。しかし、それ以前、2000年代初頭までは、住宅ローンといえば、「まずは公庫融資から」といわれるほど、わが国の住宅ローンの中心的な存在でした。最長35年の固定金利型で、金利水準も民間に比べて格段に低かったのですから、それも当然のことでしょう。
たとえば、バブルピーク時の1990年8月の金利をみると、公庫融資は年利5.4%に対して、民間融資の固定金利型は7.68%。しかも、公庫融資は35年返済まで可能なのに対して、民間の固定金利型は最長返済期間が25年まででした。その結果、ボーナス返済しないときの1000万円当たりの返済額は、表1にあるように、公庫融資が5万円台にとどまるのに対して、民間融資だと7万円台になってしまいます。誰でも「まずは公庫融資から」と考えたのも、この違いをみると納得できます。
表1 公庫融資と民間ローンの返済負担の格差(1990年8月金利:1000万円当たり) |
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金 利 |
返済期間 |
毎月返済額 |
公庫融資 |
5.4% |
35年 |
5万3048円 |
民間融資 |
7.68% |
25年 |
7万5073円 |
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▼日本のマンションの性能アップに貢献
とはいえ、どんな住宅でも住宅金融公庫の融資を利用できたわけではなく、一定の技術基準が設けられ、それをクリアした物件でないと融資を利用できない仕組みでした。良質な住宅に対する融資を行って、住宅の質的向上を推進することが住宅金融公庫の使命だったからです。
このため、住宅金融公庫の基準に基づいて設計・施工され、公庫融資を利用できる物件であったかどうかが、中古マンションを評価する際の判断材料のひとつになるといっていいでしょう。しかも、その技術基準は時代によって変化してきましたし、より性能の高い住宅については融資額を多くしたり、金利を低くする制度などが実施されていたこともあります。ですから、分譲時の融資額がどうだったか、金利の低い融資を利用できる物件だったかどうかなどを確認することで、建設時の性能をある程度評価することが可能になるわけです。
▼まず"利用可""公庫付き"をチェック
その住宅金融公庫、表2にあるように1950年度に創設され、マンション購入者に対する融資は1970年度からスタートしています。当初は、いわゆる「マンション購入資金」と呼ばれる制度だけでしたが、1975年度から「モデル団地分譲住宅建設・購入資金」制度が設置されました。これは1979年度に「団地分譲住宅建設・購入資金」に、1991年度に「優良分譲住宅建設・購入資金」に名称変更されました。このため、従来の「マンション購入資金」は"公庫利用可"と呼ばれ、「モデル団地分譲住宅建設・購入資金」「団地分譲住宅建設・購入資金」「優良住宅建設・購入資金」は、"公庫融資付き"と呼ばれていました。
公庫付きは、融資利用可より融資額が多くなることもあり、公庫の担当者がプロジェクトごとに図面段階からかなり細かく指導を行っていました。それだけに、公庫利用可の物件に比べると、さまざまな面でグレードの高い物件が多いといわれています。1975年度以降分譲の物件については、この公庫融資付きか、公庫利用可なのかが評価ポイントのひとつになるといっていいでしょう。
表2 旧住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)のマンション融資業務の変遷 |
1950年度 |
住宅金融公庫創設 |
1970年度 |
マンション購入資金融資制度設置(公庫利用可) |
1975年度 |
モデル団地分譲住宅建設・購入資金制度設置(公庫融資付き) |
1979年度 |
公庫融資付きを団地分譲住宅建設・購入資金制度に名称変更 |
団地分譲住宅割増融資の遮音性能基準制定 |
1989年度 |
公庫融資付きマンションの断熱材施工基準設置 |
1991年度 |
公庫融資付きを優良分譲住宅建設・購入資金融資創設に名称変更 |
1996年度 |
基準金利適用住宅制度のスタート |
1998年度 |
基準金利適用住宅の耐久性が必須条件に |
2003年度 |
公庫と民間提携のフラット35スタート |
2007年度 |
住宅金融公庫廃止、独立行政法人住宅金融支援機構に移行 |
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▼スラブ厚15cm以上が公庫付きの条件のひとつに
この公庫融資付きがスタートしたころは、室内のピアノなどの音を巡るトラブルが多発。
マンションの遮音性能の向上が重要なテーマになっていました。当時のマンションでは、遮音性能に大きく影響するスラブ厚12cmの物件が55%と半数を超え、15cm以上の物件はわずか9%と、1割を切るレベルにとどまっていたのです。
このため、住宅金融公庫では、1979年度から公庫融資付きの融資額の上乗せ(1戸当たり50万円)に当たって、遮音性能が一定水準であることを要件のひとつにしました。具体的には、戸境床の鉄筋コンクリートの厚さ、いわゆるスラブ厚を15cm以上とし、きしみ音が発生しない床組で、床仕上げをクッション性のある材料(畳、カーペットなど)とすること、また給排水騒音を低減することなどが求められたのです。
この遮音性能基準はあくまでも要件のひとつであり、すべての公庫付きマンションがそうであるわけではありません。とはいえ、比較的築年数の長い中古マンションを探すときには、1979年度以降の公庫融資付きマンションのなかから、スラブ厚15cm以上で、遮音性能への配慮が充実した物件を探すのがひとつの方法といえるのではないでしょうか。