都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
都市景観を語る言葉 (29)応用トレーニング その2
アーキネット代表・横浜国立大学IAS客員教授 織山 和久
これまで、いろいろと都市景観を語る言葉を連ねてきた。応用トレーニングとして、ある街について言葉を当てはめてみよう。
Oh! My Dog。商店街の歩道には近所の飼い犬が、道行く人々を静かに見送っている。犬の首には綱も鎖もなくて、一人前としてみなされている。犬も、行きたいところに自由に行ける。街を歩く人々も、犬を特に警戒もせずに、自分たちの仲間として受け入れている様子である。犬は街の風景として溶け込んでいる。犬に優しい街は、きっと人にも優しい街であろう。
犬の歩く辺りは、車道より広くとられた歩道だ。道は、おクルマ様のものではない。道沿いにはカフェや点心などの飲食店が並び、歩道に置かれたテーブルとイスで人々は朝食をとる。歩道にはしっかりした軒がかかって、夕涼みや雨宿りもできる。道を挟む建物も、中低層で間口もほどほどと粒揃いで、道に居る人々に圧迫感を与えることはない。向かい側に知り合いがいれば、目くばせもできる距離だ。人の道とはこうしたものだろう。
街中には、こじんまりとした公園があちこちにある。公園には人を遠ざけるような囲いや段差がなく、広場のまわりを伸びやかに育っている樹木が並ぶ。そんな公園を、人々は思い思いに横切ったり、木陰で一休みしている。知り合いと立ち話にも興じ、人との交わりが生まれる。みんなの広場である。周囲の建物も中低層で粒揃い、公園とは歩道と樹木をはさんで一続きになっている。相応に年を経た建物群もこうした樹木の背景にふさわしい。サクセスフルエージングによって公園と建物が一体となった景観の魅力を、お互いによく分かっている。新築建物も、そんな景観を尊重するように計画されている。広場は街の素である。公園に隣接する喫茶店からは、そんな公園の様子を手前から遠くまで見やりながら、憩いのひとときを過ごすことができる。公園の管理の都合で囲ったり閉じたりしない。公共空間は、統治者のものではなくて、市民社会のものである。
この街は、台北。写真のような光景は、街のいたるところで見いだされる。特別な観光地でもなく、日常的な風景である。人間のための都市。見習うことは多い。みなさんも、都市景観を語る言葉を参考に、ぞれぞれに訪れた街についてぜひ語りあってみて下さい。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。