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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.86 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

都市景観を語る言葉 (17)『市』と『ムラ』

(株)アーキネット代表 織山 和久

 商いの場として『市』が立ち、その周りに人が集まって暮らします。こうして都『市』が出来上がりました。そしてこの『市』の本質が、都市のあり方に重なります。市民社会にふさわしい都市のイメージは、おそらく『市』のきまりを育むようなものなのだと思われます。

手袋を買いに

 『市』の本質については、新美南吉「手袋を買いに」に明快に描き出されています*1。母ぎつねは、人間は相手が狐だと解ると手袋を売ってくれないと案じ、子ぎつねの片方の手を人間の手に変えます。でも子ぎつねは間違って人間の手でない方の手を帽子屋さんに出します。店主はきつねだと分かったのですが、白銅貨が本物なので子ども用の暖かい毛糸の手袋を持たせてやりました。つまり『市』の決まりとしては、取引相手が誰であれ分け隔てしない、身分や経歴、ハンディキャップなど属性で差別しない、というもので店主はそれに従って行動したわけです。

江戸末期、ペアトによる愛宕山から見渡した東京の風景。同じ瓦屋根の二階建ての建物が並ぶ。

 このような『市』の決まりを大切にした都市では、市民同士は属性に関わらず対等であり(フラット)、お互いに出会う機会が開かれて(オープン)、コミュニケーションや取引などで多くの市民たちが広く深く結びついています(ネットワーク)。実際の都市空間としても昔の江戸・東京などは、『市』の決まりに対応してつくられています。建物はみな二層で揃って道端からは同等に見え(フラット)、誰でも自由に出入りできる広場では商いや娯楽などに人々が集います(オープン)。人々の仕事場や居場所は、表通り・横丁・裏路地によって相互に表裏になって複雑に結びついています(ネットワーク)。広々とした空、庭園都市のように豊かに茂る樹木、そして遠景の富士山の眺望などの価値は、市民たちに等しく共有されています。そして、この属性によらず仕事ぶりで評価される、主張にしても誰が言ったかではなく何を言ったかが大事である、といった『市』の決まりとそれを育む都市に魅力を感じて、人々はさらに集まります。こうした都市風景を見かけたら、心温まる「手袋を買いに」の話を思い出しことにしましょう。

名古屋の四間道。3百年前に出来た低層の街並み

ムラだらけ

 こうした市民社会とは、対照的なモデルがムラ社会になります。
 家柄や経済階層、年齢、性別などで上下関係が定まり(ヒエラルキー)、ムラのしきたりや価値観以外は認められず(クローズ)、村の行事や共同作業では上意下達で一致団結する(ツリー)、というのが特徴とされます。これに異を唱えるような人々には、道端で会っても挨拶もされず、預金残高もみんなに知られ、水道を引いてもらえない、など容赦ないとも伝えられます*2。序列ははっきりしていて、身分や経歴など属性で差別される社会と言えます。ムラ社会では、何を言ったかより誰が言ったか、が決定的に重要です。
 ちなみに都市のコミュニティと言うと、町内会や商店会などを思い浮かべる向きもありますが、実はこれらはムラ社会の延長とも考えられます。このようなしきたりや価値観は、永田町ムラ、原子力ムラといった表現の通りですが、利権を独占するような社会集団にも見受けられます。
 しかし、このムラ社会のしきたりや価値観が、都市構造に反映されるとすぐに取り除けないだけに困りものです。富や権力の表現として、巨大さを競う建物があちこちに建ち並びます(ヒエラルキー)。賑わいも、オープンな広場ではなくて、もっぱら特定の店舗ビルなどの中に閉じ込められます(クローズ)。そして街区同士は、幹線道路で分断されて相互の交流も薄れる(ツリー)、といった都市構造です。広い空は覆われ、緑地は失われて、眺望も独占されています。このように考えると、いまの東京の都市構造は、ムラ社会の論理、それも肥大化した論理でどんどん浸食されているようにも思われます。『市』民感覚とは合わないのは当然です。こうしたヒエラルキー丸出しで、クローズされたツリー構造の都市風景をみかけたら、「ムラだらけだね」と呟きましょう。

現在の渋谷の光景。低層の住宅街を見下ろすように、国道246号
沿いにホテル、オフィス、商業ビルなどの高層ビルが建ち並ぶ。

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 市民社会にふさわしい都市のあり方、東京五輪を前にこれからの建築やまちづくりを考える上でも、心に留めておきたいものです。

*1 松井彰彦:高校生からのゲーム理論,ちくまプリマ―新書,2010
*2 沖田×華:蜃気楼家族,幻冬舎,2010-
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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