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都市景観を語る言葉 (3)盛りすぎ
(株)アーキネット代表 織山 和久
都市景観を語る言葉を充実させて、少しでもよい建築や街並みができるようにしたい。そこで前回までの「恥ずかしい」「和む」に続き、今回は「盛りすぎ」を選んでみた。
「どのビルも盛りすぎ!」
青梅街道東側から大ガード、歌舞伎町を望む。屋外広告塔と袖看板がにぎにぎしい
へアスタイルでは、お団子や編み込み、カールアップなどで「盛り」にする。カラコン、つけま、メザイクとメイクアップの技もいろいろ。でも、せっかくのプロポーションを乱し、元の魅力を損なうほど手を加えてすぎて、かえって醜くしてしまうのでは盛りすぎだ。
都市景観の「盛り」といえば、屋外広告塔である。ビルの屋上には、建物の高さの2/3以下、全体で地表面から52m以下であれば、こうした屋外広告塔が東京都屋外広告物条例によって許可されうる。つまり、高さ30mのビルならば、高さ20mもの広告塔を盛ることができてしまうわけだ。これほど大きく派手な広告塔が盛られたら、せっかく建築法規に則って建築家がプロポーションにも配慮して設計したビルも、台無しだ。昔のように、ぽつんと高い建物があって広告塔が乗っていたなら、一帯の人々に対して、それなりの広告効果があったのかもしれない。でもいまの都市部は違う。同じような高さのビルが並んでいては、もう目立たない。わざわざ見上げる人がいるとも思われない。こうした屋外広告塔は、都市景観を損なうのを補うまでの、広告の意義があるのだろうか。
「つけま」に相当するのは、ビルから横に突き出す袖看板である。2F 和食○○、3F ○○医院、4F ○○事務所、などと表示されてビルの脇に縦に並ぶ看板である。この袖看板についても条例では、道路境界線から出幅1m以下、建物からの出幅1.5m以下、高さは歩道から3.5m以上52m以下までのものを認めている。こうした袖看板がにぎやかだと、歩道から進行方向にまっすぐ見上げても、ビルの壁面が見えないぐらいである。これではせっかくの美しい外壁面も見えず、街並みの印象は袖看板で支配されてしまう。これも昔ならいざ知らず、いまはスマホで場所や階数を確かめる人が大半なので、もともとの袖看板の意義も薄れている。本当に必要なのだろうか。
ビルの「盛り」と「つけま」をとると、どれだけ都市景観がましになるか、試しに歌舞伎町周辺をモデルに、ビルたちをすっぴんにしてみた。最初に「盛り」を取り外し、次に「つけま」をとってみた。思った以上にすっきりして、猥雑な感じがなくなることがよく分かる。
屋外広告塔を外す。奥の方ではビルの高さが揃って、統一感がある。
袖看板を外す。猥雑さがなくなって、すっきりとした印象を与える。
ものはついで、カリスマ美容外科さながらに、思い切って街並みを整えてみた。
まず建物の高さを10階ほどに揃える。建物の圧迫感が薄れて、青空が広く感じられる。容積率は、東京都区部全体で一層半分も余っているし、これから人口も減るかもしれないので、道路に面するビルの高さを抑えるのもおかしくない。
次に歩道を広げてみる。違法駐車の車両で車線がつぶれているより、歩行者や自転車に利用してもらう考え方だ。こうすると見た目にも、車の街から人の街へ、と都市景観の印象が変わる。広がった歩道には、オープンカフェや青空市場などで、新たな街のにぎわいもできるだろう。
高さを揃える。圧迫感がなく、空が広い。
歩道を広げる。街並みが人間的に感じられる。
せっかくの青梅街道なので、街路樹に梅を植えてみた。こんな街並みだったら、春の訪れを待ちわびて、思わずぶらぶら歩きしたくなる。仕上げにビルの外壁の色調を明るく整えてみた。元の写真と比べると、全く違う魅力が生まれている。
梅を植える。歩きたくなる街になる。
外壁の色調を整える。街並みに品格が感じられる。
ビル単独で「盛り」や「つけま」で飾り立てても、周りも同じように飾り立てたら、全体はかえって醜くなってしまう。でも単純なルールによって街並み全体を整えていくと、ひとつひとつのビルは控えめでも、ずっと居心地の良さそうな都市空間ができる。ビル自体の価値としても、単独で下手に盛ったりつけまするより、こうした都市空間に馴染ませていく方が、すっぴんでいながらずっと資産価値が上がるのではないだろうか。
街中で上を見上げて目障りな屋外広告塔が見えたら、「盛りすぎ」とつぶやいてみよう。そして自分たちにはどんな街並みがいいのかを、上の一連のサンプル画像を参照しながら、考えてみるといいと思う。
動画はこちら: https://www.youtube.com/watch?v=Lpzff55Y8ag&feature=youtu.be
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。