都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
都市景観を語る言葉 (1)恥ずかしい
(株)アーキネット代表 織山 和久
自分たちの暮らしている建築が、いい街並みをつくって雰囲気を良くするのは結構なことである。資産価値も上がる。でもこの都市景観を語る言葉が、なかなか共有されていないのが残念である。近隣住民は「窓から覗かれるのがいやだ」「境界ぎりぎりに建っていて圧迫感がある」といった自分の利害で語りがちだし、建築家の方は、「全体を格子で構成し、下層階と上層階の切り替えを、入れ子にする形で処理し、美しい比例のファサードとなっている」「不要な線を消していく肌理細やかなデザイン、全体を通じての精度の良さによって、都市の中での品格のある建築として仕上がっている」と難しい。
でも日常の言葉、俗語まで含めれば、都市景観を語る言葉は実に豊富である。いいものはいい(たとえば「大人だね」)、悪いものには悪い(たとえば「不燃ごみ」)、と街の人々が言葉にすれば、それはディベロッパーや設計者など建てる側の胸の奥に響いて、少しでもよい建築ができてくると思う。率直な感想がいい。
そこで今回は手始めに「恥ずかしい」をとり上げてみよう。恥ずかしい、というのには周りの目を意識する立場が現れている。単なる自分の利害ではなく、都市景観といった周りの目を意識する言葉にはもってこいである。そして、その建物が周りの目からみて体裁が悪いといった意味になる。
例文 「豊島区新庁舎は恥ずかしい」
図 豊島区新庁舎整備計画。庁舎はギャランドゥ部分に相当する
右図が完成予想図で、高さ189m49階建てで低層階が庁舎、中高層階が分譲マンションになる。庁舎部分には環境負荷を抑えるために、壁面緑化が計画されている。区の土地をディベロッパーに定期借地で貸し出して、その対価で財政負担なく庁舎を建て替えるということがこんなデザインでいいのだろうか。
これは公序良俗に反するデザインである。アサヒビール吾妻橋ビルが「ウ○コビル」と言われるのだから、この建物が何と呼ばれるかは容易に想像がつく。もともとタワービルは富や権力の象徴で男性的な表現が与えられるが、この計画は低層部にいろいろ生やしているのがまずい。区庁舎だけなら後で解体もできるだろうが、50年の定期借地権を設定しているので半世紀はこれが立ったままになる。
上空からの写真がグーグルに掲載されたら、それこそ豊島区や世界中の物笑いの種になりかねない。モザイクをかけてもらおうとグーグルに要請するのもみっともない。
ほんの一例だが、このような建築には「恥ずかしい」という言葉がふさわしい。都市景観は、こうした言葉と意識を共有するところから造られる。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。