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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.66 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

パブリックとプライベート (3)路地空間

(株)アーキネット代表 織山 和久

路地の魅力

根津・谷中の路地空間。
植栽が表側に滲み出して、彩を添える

 根津は、情緒ある低層建築が連なり、通りや路地が心和むコミュニケーション空間を成していることで知られている。ほどよい幅員と通行量なので、人々はお互いに挨拶し、ふと立ち話もはずむ。子供にとっても、大人の目に守られた格好の遊び場である。ガラス扉や窓も外に開かれ、気軽に立ち寄りやすい。ぶらぶら歩くうちに馴染みの店にたどり着く。 街の将来像に関する居住者へのアンケート*1でも、「歩行者優先道路・買い物道路の整備」45.1%、「下町情緒を残す文化・歴史ある建物の改修・保全」45.7%、「現在の路地を生かす」36.1%が高い支持を示している。ほどよい距離感が好まれている。一方で「日照などに配慮してあまり高い建物を建てさせない」48.7%、「土地の有効活用のために中高層化を進める」5.0%と、中高層化は不人気である。

ほどよい距離感

 路地空間は、根津のみならず洋の東西を問わず好まれている。身体感覚に適っているので、風土や文化の違いを超えて心和む空間になっているのだろう。
 人々の間の物理的距離と会話を始める可能性には、深い関連性が見出されている*2。0.5m以内では恋人同士のようにごく親しい間柄でなければ近すぎて避けられる。0.5〜1.5mが日常の会話の距離で、この範囲内では逆に会話なしではいられない。1.5〜3.0mでは仕事や社交といったフォーマルな対話でとる距離で、しばらくはお互いに会話なしでもいられる。3.0〜7.0mでは知り合いを無視することはできず、20m内であればお互いに知り合いであるかどうかが判別できる。
 こうした距離感が近世以降の都市を構成し、江戸では表通りは幅員3〜5間(4.8〜9.0m)なのに対し、生活道路である路地は6〜9尺(1.8〜2.7m)程度であった。そして戦時体制で防空法に従う1938年までは道路幅員の法定最低限度は9尺(2.7m)、現在は4.0mであるが根津や神楽坂、町屋などの街にはこうした9尺ちょっとの幅員の細街路が残されている。居心地の良い路地空間は、幅員6〜9尺(1.8〜2.7m)が適切なようだ。

たまり場

立ち話の距離感。一辺0.6mの六角形状に並ぶ 形態率。地上の視点Pを中心として想定される天球の水平投影面積に占める、建築物を天球に投影した投影面の水平投影面積(S0)の割合

 路地で人々が出会うと、立ち話が始まる。この立ち話を促す、たまり場にも身体感覚に根付いた程良い大きさがある。どうも一辺0.6m(0.5〜0.75m)ほどの六角形が基本形になるようだ。理由としては
視野:人間の左右の視覚は120°が上限である。会話の相手の表情や仕草も常に見て、話の展開方向を決めるためには、この範囲に相手がいることが条件になる。
距離感:人間はお互いに近づきすぎると不安になる。パーソナルスペースという考え方だが、あんまり恥ずかしがりでない人で、その範囲は、知らない相手には1.0-1.2m、親しい相手では0.6mほどになる。
方向性:もちろん、第三者の背中越しに話をすることは憚られる。
 こうした条件でできるだけメンバーを平面に配置すると、一辺0.6mの正六角形の頂点に、メンバーが並ぶ位置関係になる。人数にして6人が限界、ということだ。
そして6人だと、会話相手の組み合わせも著しく多様になる。6人全員が1通り、4人と2人で15通り、3人と3人で20通り、2人・2人・2人で90通り、で計126通りになる。従って関心や話題に応じて、いろいろな組み合わせが出来て話も膨らむ。これが3人では1通り、4人では7通り、5人では11通りなので、6人の会話パターンの豊かさは飛躍的になることが分かる。そして6人の輪に新たに1人入ったときは、話の輪は3人と4人など266通りに小分けになって広がる。
 立ち話を促す空間は、この六角形を取り巻くようにつくられる。背中は壁に密着しないし、立ち話していて背後に他の人が回り込むのも避けたい。そうすると背後には、0.6mぐらいの間隔をとることになる。完全に囲うと立ち話の輪ができないので、六角形の半分くらいは外から見える。他の人の通行を妨げないように、1.5m以上は空けておく。以上の条件から立ち話にふさわしいたまり場は、幅員2.0m以上の路地に半径1.2mほどの半円の囲われた場が接続した空間になる。こうした半円状のたまり場は、建物を引っ込めたり、壁で構成するほかに、まっすぐの路地の脇に3m弱の程良い間隔で樹木を植えることでもつくられる。

スケール感

 路地空間が居心地良くなるには、路地を取り巻く建物のスケール感も重要である。こじんまりとした路地だが、その脇が盾のように聳える高層ビルでは、とても落ち着かない気持ちにさせられる。そしてこの建物から受ける圧迫感については、形態率が左右していることが分かっている*3。形態率とは、視野の中で建築物が占める割合を、壁面の立体角の割合で示すものであり、4%から意識され始めて許容限界値は8%とされている。

形態率を表す図

 まず建物の高さ10mで試算してみよう。建物の幅15m、奥行6m、建物・人が境界から1m離れているとして、形態率は4.0%。高さ10m、つまり三層で建物の高さが揃っていれば、15mほど連続していても、手前の路地で立ち話していても圧迫感は感じられない。
 次に高さ12mにする。この場合、建物の幅11mにして形態率は4.1%、ここから圧迫感を感じはじめる。4m間隔で三棟並べると、形態率は8.0%で圧迫感はぎりぎり。
 さらに高さ31mになると、建物の幅・奥行を10mとして、建物から仮に10m離れても形態率7.9%、圧迫感は限界的だ。縦長なのでさらに圧迫感は増す。それに10mも離れれば、立ち話をしていても背後に人が往来するので気は休まらない。10階建ての建物の前では、なかなか立ち話にはなりにくい。

いまの都市への埋め込み方

コーポラティブハウスの路地空間 低層の建物が柔らかく囲み、ちょっとしたたまり場が設けられている

 いまの建築法規に従うと、表通りは幅員4m以上が義務付けられて車も行き交うので、和やかなコミュニケーション空間にはなりにくい。したがって路地をつくるなら、こうした車道に囲まれた街区の内側になる。行き止まりの区画や接道条件に恵まれない区画をまとめ、その中に幅員1.8〜2.7mほど路地空間を引き込む方法である。建物は、路地空間に圧迫感を与えずに和やかに囲むように低層の連棟(高さ10m以内)ないし分棟(高さ12m以内)で構成される。合間には、半径1.2mほどの半円状のたまり場が設けられる。コーポラティブハウスを優れた建築家が手掛けると、こうした路地空間を大切にした低層・耐火造への建替えが自ずから実現している。世帯数も5〜10戸全前後、立ち話にも向いた規模でもある。そして隣接したコーポラティブハウス同士でこうした路地を緩やかにつなげていけば、現代の都市にも豊かなコミュニケーション空間を取り戻すことができると感じている。

*1 文京区「根津駅周辺地区まちづくりアンケート調査」2006
*2 西出和彦「人と人の間の距離」建築と実務、1985
*3 武井正昭他「圧迫感の計測に関する研究 1〜4」日本建築学会論文報告集第261号1977年11月、第 262号1977年12月、第263号1978年1月、第310号1981年12月
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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