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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.47 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

エコとコーポラティブハウス(5)
スマートハウスはスマートではない

(株)アーキネット代表 織山 和久

スマートハウスへの期待

 家庭部門の二酸化炭素排出量を抑えようと、エネルギーを創り、蓄え、制御するスマートハウスの開発・普及が官民一体で進められています。スマートハウスとして簡易リフォームを施した実験住宅で、温暖化ガス排出量相当を計測すると、約10%以上の削減効果がある、と報告されています*1
 けれどもその導入費用は、燃料電池システムはレンタルで済ませたものの、測定器・通信機器等の機器費用で500万円、蓄電池システム180万円、機器設置工事費用170万円、断熱ブラインド25万円、と計875万円に上りました。太陽光発電装置が約200万円だとして、1,000万円を超える投資です。測定器・通信機器等は量産化で100万円以内に収まったとしても、600万円かかります。
 前回試算した、「カイゼン」30%前後、「元から使わない」58%、といった削減方法に比べると、スマートハウスの費用は600万円とずっとかかる上に、効果も10%前後でいまいちというのが実態です。

*費用はハウスメーカーにより変動します。

戸建ての限界

 またスマートハウスは、どうしても戸建てが前提という問題があります。マンションでは屋上面積が足りません。一世帯の消費電力70%を賄う4kWシステムの太陽光発電に必要な面積は、25~40m2になります*2。一戸当たり専有面積が80m2、レンタブル比(=専有面積合計÷延べ床面積)90%、屋上の70%まで太陽光発電パネルを置けると仮定して、容積率でみてだいたい80〜200%を超える建物では、パネル設置面積は世帯数に足りなくなります。マンション(を建てる都市計画区域)の容積率大体300%以上、タワーマンションになると1,000%なので、居住世帯数分の電力需要にはとても足りないことが分かります。
 では戸建てを都市圏で求めると、世帯収入から住宅ローンの負担に無理のないような価格で選ぶなら、場所はどうしても郊外になります。東京都の住宅白書によれば、平均年収の5倍で戸建てを求めるなら、中央線沿線で八王子駅近辺、都心から40km圏という距離になります*3。こうした郊外では、どうしても自動車に頼る暮らしになりますから、家庭の二酸化炭素排出量32.6%分を丸ごと省くような手段はとれなくなります。

スマートシティの前にコンパクトシティ

 スマートハウス群がお互いに余った電力を融通し合うのがスマートコミュニティで、さらに電力消費の多い都市部にクリーン電力を送電しようというのがスマートシティの考え方です。主な交通手段は、余剰電力を蓄えられる電気自動車です。目的は地球温暖化対策で、そのためのインフラ整備が新産業になるそうです。
 正気なのでしょうか? 先に触れたように、スマートハウスで削減できる二酸化炭素は10%。4kWシステムの太陽光発電装置を設置して、世帯の年間消費電力量の70%程度をまかなう水準です。ピーク時で融通し合うのはできるかもしれませんが、とても電気自動車を充電したり、都心に送るほどの余剰電力が捻出されるとは思われません。温暖化対策の助けにはなるが、決め手になるわけではありません。

都心の木造密集地域 2階建ての老朽木造賃貸アパートが並ぶ。火災に脆弱で空室も目立つ

 家庭部門で二酸化炭素排出量を抑えるというなら、まずはその3分の1を占める自動車を使わずにすむ、職住近接の都市構造にするのが本筋です。徒歩や自転車で通うなら、余分な二酸化炭素は排出されません。東京の都市空間はずいぶん余っています。区部の指定容積率は256.4%に対して概算容積率は151.1%、と使える都市空間のうち4割強が未使用です*4。何もタワーを乱立させる都市にする必要はありません。都心近くの低層の老朽木造密集地域を集合住宅等に建て替え、階数にしてあと一層半ほど上乗せすればいい位です。そうなれば都心までせいぜい10~15km前後、鉄道網も発達していますし、自転車でも通える職住近接のコンパクトシティになります。わざわざ郊外でスマートハウスを買って、通勤に1時間半もかけずに済むわけです。

コーポラティブハウスとスマートハウス

 コーポラティブハウスを主とした低層の集合住宅に建て替えてみましょう。そうすると30年という戸建ての寿命の倍近くは長持ちしますから、解体・再建築によって無駄な二酸化炭素を排出せずに済みます。そして建築家によって、個々の場所の特性に応じて日当たりや風通しの良い設計になるので、機械や設備に頼らなくても自然に心地よく過ごせ、そのまま温暖化対策になります。
 下の写真は南向きのコーポラティブハウスの例ですが、冬は全窓前面から光を取り入れられるので、昼間にはコンクリートスラブの床に蓄熱して、一日中足元からポカポカします。電気に変換せずに、日照を直接に熱源にしますので、高いエネルギー変換効率を誇ります。また夏場は、窓ガラスの約1m外側にパンチングメタルの覆いがあるので、そこに例えばヨシズを立て掛ければ、窓ガラスへの直射日光を避けて輻射熱も抑えることが簡単にできます。窓を開け放てば、気持ちの良い風が住まい全体を流れます。したがって、エアコンもほとんど使わずに済みますし、断熱材やペアガラスといったわざわざ高価な仕様にする必要もありません。

日当たりと風通しのいいコーポラティブハウス 真冬でも日照が床を暖めて寒さを感じさせない

 もし建て込んだ場所であれば、風の通り道を読み取ってジャロジーの開口部を設ければ、夏場でも心地よい風が部屋中を通すことができます。ここで地階から一階、二階と重なったメゾネット形式をとれば、当然に風の通り道も短くできて快適です。また階段室内に上下を貫くファン付のダクトを備えれば、夏場は地階のひんやりした空気を上に、冬場は搭屋で温まった空気を地階に、と運ぶことで自然の力を生かした効率的な空調も出来ます。またコーポラティブハウスは低層なので一戸当たりの屋根面積もとれ、そこを太陽光発電に充てることもできるでしょう。要するに、場所の特性を生かして建築家が工夫した設計は、そのままスマートハウスになるわけです。でも一律ではありません。
 政府では「スマートハウス」の標準規格を検討しているようです。けれども、その標準化の試み自体、光や風の入り方など場所の特性を生かさない、という考え方ではないでしょうか。場所の特性を無視し、細かく部屋に分割した(風通しを妨げる)プランを前提にして、一律に、省エネタイプのエアコン、外断熱、ペアガラス、太陽光発電、スマートメーターといった仕様を導入する、というのは、まったくスマートではありません。

コンパクトシティをつくる

 コンパクトシティ実現のためには、固定資産税を元通り土地(建物を除く)の実勢価格の1.4%課税するのが最善です。いまは宅地の実効税率は0.14%ほど*5、値上がり待ちで、何も建て替えずに償却期間の終わった木賃アパートや青空駐車場のままにしておけば、地主としては十分な収入は上げられます。相続でも控除の特典を使えば、10億円の土地資産でも相続税は相続人4人とすれば4,200万円、4.2%で済みます。こうしたな土地持ち優遇税制のために、都市空間は十分に生かされていません。何とももったいないことです。
 この土地持ち優遇税制のために、わずか7万7千人の所有者(個人・法人)が東京都区部全体の50.0%の宅地を所有する、という著しい資産格差を生んでいます*4。主に、昔から土地を持っていたという要因で、一所有者当たり平均1,900m2弱、坪250万円として14億円強の土地資産を保有しています。サラリーマンの生涯年収が3~4億円、所得税や法人税など税金もだいぶ納めているのに、なんとも不公平です。
 都市空間を生かすためにも、ついでに資産格差を是正するためにも、しっかり固定資産税をかけるのが最善策です。いまの税率で、いくら大地主に建て替えの補助金を上げても建て替えるインセンティブは働きません。ちゃんと固定資産税をかけた分、サラリーマンの所得税や住民税、会社の法人税もなくせる位の税収増になるので、まっとうに勤めている人たちはずいぶん報われます。建て替えの膨大な建設需要も、毎年数兆円規模で生まれます。温暖化対策を契機に、車に頼った都市構造、少数地主に偏った資産構造を見直したらいいと思います。スマートシティは、このコンパクトシティに重ねるべきものです。歪んだ土台を直さないまま、スマートハウスなどの政策を積み重ねるのもおかしな話です。

*1 三菱総合研究所「平成21年度スマートハウス実証プロジェクト報告書」第4章
*2 一般社団法人 太陽光発電協会 ホームページ
*3 東京都「平成15年度東京都住宅白書」
*4 東京都「東京の土地 2010」
*5 国土交通省「固定資産税実効税率(住宅地及び商業地・全国)」
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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